2025年5月19日、台湾・台北で開催された世界最大級のICT展示会「COMPUTEX 2025」にて、NVIDIAのCEO ジェンスン・ファン氏が基調講演を行い、AIを軸とした新たな産業革命の幕開けを強調した。
講演では、NVIDIAがこれまでのGPUチップメーカーから、コンピューティングプラットフォーム、そして最終的には「AI工場」を支えるインフラの中核企業へと進化してきた軌跡を紹介。今後のAIインフラストラクチャー市場が数兆ドル規模に成長すると予測した。
■ データセンターは「AI工場」へと進化
ファン氏は、現代のコンピュータは単体のマシンではなく、データセンター全体が1つのコンピューティングユニットとして機能していると説明。AIの処理は複数のプロセッサーが密に連携する必要があり、従来のデータセンターの概念を根底から変えると述べた。
NVIDIAはこの新たな形態のデータセンターを「AI工場」と呼び、AIがトークン（＝価値ある出力）を生産する産業へと進化していると表現した。将来的には、トークンの生産量が1時間単位で語られる時代が訪れるとも予測している。
■ 次世代AIインフラの核「Blackwellアーキテクチャー」発表
講演では、最新のBlackwellアーキテクチャーに基づく「Grace Blackwell GB300」システムを発表。1ノードあたり40ペタフロップスの性能を誇り、前世代と比較して推論性能・メモリ容量・ネットワーク帯域を大幅に向上している。
また、GPU間の高速通信を可能にする「NVLink Spine」システムも紹介。これにより、72基のGPUがリアルタイムで相互通信可能となり、1ラックあたり130TB/sという前例のない帯域を実現している。
これらのシステムは、すでにOracle CloudやCoreWeaveといった世界の先進AIデータセンターに導入されている。
■ 「NVLink Fusion」で柔軟なAIインフラ構築を支援
NVIDIAは、顧客独自のカスタムCPUやASICをNVIDIAプラットフォームと統合できる「NVLink Fusion」を新たに発表。これにより、MediaTekやMarvell、富士通、Qualcommなどの企業がNVIDIAのエコシステム上でカスタムAIインフラを構築可能となる。
■ エンタープライズITに向けた「Agentic AI」と新サーバー
AIが企業のIT業務に革新をもたらすとして、NVIDIAは「Agentic AI」（エージェントAI）を紹介。これは自律的に判断・学習・協働が可能なデジタルワーカーであry。
これを支えるプラットフォームとして、「RTX Pro Enterprise and Omniverse Server」が発表されました。従来の仮想化環境やKubernetesにも対応し、AIワークロードの処理に最適化されている。
また、新たに発表された「NVIDIA IQ」や「AI Data Platform」により、非構造化データの意味抽出・検索・ランキングといったAI向けストレージ処理にも対応できる。
■ 開発者向け「パーソナルAIシステム」も拡充
個人や小規模チームでも利用可能な高性能AIシステムとして、「DGX Spark」および「DGX Station」も発表。クラウドに依存せず、デスクサイドで1ペタフロップスのAI処理が可能なシステムで、DellやLenovoなどから提供予定。
■ ロボティクスとデジタルツイン技術の未来
NVIDIAは物理ロボット開発も推進。「NVIDIA Isaac Groot」プラットフォームを通じて、デジタルツイン（仮想世界）でのロボット学習を促進します。TSMCやFoxconnなど台湾の製造業パートナーは、Omniverseを活用し、自社工場のデジタルツイン化を進めている。
■ コンシューマー向けGPUとAIソフトウェアの進化
ゲーマー向けには、GeForce RTX 50シリーズや、AIモデルの高速化を支援する「TensorRT for RTX」「NIMs for RTX」を発表。AIによるゲーム描画や、PC上でのAI開発がさらに身近になる。
■ NVIDIAと台湾：30年にわたるパートナーシップ
ファン氏は、これらの革新が実現できた背景に、台湾のパートナー企業との長年の協力関係があると語った。TSMC、Foxconn、Wistron、Pegatron、Gigabyteなどの企業がAIインフラの開発を支えており、今後は台湾に初の巨大AIスーパーコンピューターを建設する計画も明らかにされた。
■ 今後の展望
NVIDIAはAI時代のあらゆるレイヤーに対応するプラットフォームとエコシステムを構築中である。データセンター、企業IT、パーソナルユース、ロボティクス、そしてコンシューマー向けまで、幅広い分野で革新を進めており、AI産業全体の中核としてその存在感をさらに高めている。